「社長からのメール」で5,000万円が消えた──企業を襲う”虚偽送金指示”詐欺は、SNS詐欺と同じ構造
「社長からのメールだから、すぐ振り込まないと」──その判断が、5,000万円を消した。
企業を狙う「虚偽送金指示」の詐欺が止まらない。2026年に入り、上場企業が立て続けに億単位の被害を公表している。そしてこの手口は、SNSで中高生が狙われる詐欺と、構造がまったく同じだ。
🟨 この記事のポイント(1分で理解)
- 日本和装HDが「虚偽の送金指示」で5,000万円を流出(2026年5月8日公表)
- 4月にはIT企業はてなも同様の手口で最大約11億円の被害を公表している
- 2025年末から「社長になりすまして送金を指示する」CEO詐欺が国内で急増中
- ハッキングではなく「人が騙されて自分で送金する」構造──SNS詐欺と本質は同じ
- 「至急」「秘密にして」「別の連絡手段で」は、企業でもSNSでも詐欺の典型ワード
日本和装HD・はてな──上場企業で相次ぐ「虚偽送金指示」被害
2026年5月8日、きものの仲介事業を手がける日本和装ホールディングス(東証スタンダード上場)は、悪意ある第三者による虚偽の送金指示で5,000万円の資金が不正に流出したと発表した。被害が発生したのは4月30日。同社は流出後まもなく指示が虚偽であることに気づき、捜査機関へ被害届を出している。被害額は特別損失として計上される見込みだ。
この約2週間前には、IT企業のはてな(東証グロース上場)が、同じく虚偽の送金指示で最大約11億円の資金が流出したと公表していた。はてなでは4月20日と21日の2日間にわたり、従業員が第三者の虚偽の指示に従って送金を実行。取引先銀行からの連絡で不審な送金が発覚している。被害額は同社の通期営業利益予想の約8倍に相当する規模だった。
なぜ今、この手口が急増しているのか
これは大企業だけの話ではない。「信頼できる相手からの指示」を疑えるかどうかが問われている。
こうした「社長になりすまして送金を指示する」手口は、「CEO詐欺」「ニセ社長詐欺」と呼ばれている。正式には「ビジネスメール詐欺(BEC: Business Email Compromise)」の一種だ。BEC自体は以前から海外で深刻な問題だったが、2025年末頃から、LINEなどのチャットツールに誘導する新しいタイプのCEO詐欺が日本国内で急増している。
トレンドマイクロの調査によれば、2025年12月7日頃からCEO詐欺メールの検出が始まり、12月15日頃には1日あたり約1,000件に急増。2026年1月5日には1日で10,000件を超えた。国内6,000以上の法人ドメインに攻撃メールが送付されているという。毎日新聞の報道では、2025年12月中旬以降、東京都内だけで43社が攻撃を確認し、うち14社で合計6億7,000万円の被害が発生したとされている。
手口の特徴──「人間の心理」を突く
BECの最大の特徴は、システムをハッキングするのではなく、「人が自分の判断で送金してしまう」点にある。最近の典型的な手口は次のような流れだ。
- 社長や役員の実名を騙ったメールが届く(「業務のためLINEグループを作成して」など)
- LINEなどの外部ツールに誘導し、社長と1対1のやりとりだと思い込ませる
- 「至急」「極秘案件」「他の人には言わないで」と指示し、送金を実行させる
なぜプロの経理担当者でも騙されるのか。それは、この手口が人間の心理の弱点を正確に突いているからだ。「急いで」と言われると確認行動が減り、「秘密にして」と言われると周囲に相談しづらくなる。さらに「社長」「先生」「公式」など立場の強い相手からの指示は、無意識に信じやすい。この3つが重なると、ふだんなら疑うはずの指示にも従ってしまう。
注意すべきは、犯行に使われるメールやチャットツール自体に問題があるわけではない点だ。LINEもメールも正規のツールだが、そこに「信頼できる人物を装った偽の指示」が乗ってくる。ツールではなく「人間の信頼を悪用する流れ」こそが問題の本質だ。
企業の詐欺とSNS詐欺──共通する「騙しの構造」

この手口には、SNS上で中高生や一般ユーザーが遭遇する詐欺と驚くほど共通した構造がある。
| 騙しのテクニック | 企業向けBEC | SNS詐欺 |
|---|---|---|
| 信頼できる人を装う | 社長・取引先 | 友達・公式アカウント・推しの関係者 |
| 焦りを煽る | 「至急」「今日中に」 | 「今すぐ対応しないとアカウント停止」 |
| 秘密にさせる | 「他の人には話さないで」 | 「このURLは他の人に教えないで」 |
| 別の連絡手段に誘導 | メール→LINE・Teamsに移行 | SNS→個人DM・外部サイトに移行 |
つまり、「信頼」「焦り」「孤立」の3つを組み合わせて判断力を奪うのが、企業詐欺にもSNS詐欺にも共通する構造だ。上場企業のプロの経理担当者ですら騙される手口が、中高生を狙わないはずがない。
家庭・学校でできること
- 「お金」「アカウント情報」が絡むメッセージは、別の手段で本人に確認する──メールで来たら電話で、DMで来たら直接会って確認する。企業でも家庭でも、これが最も有効な防御策
- 「至急」「秘密にして」は詐欺の典型ワードと家族で共有する──急がせて、相談させない。この組み合わせが出たら一度立ち止まる習慣をつける
- 「なりすまし」は見た目では判別しにくいことを前提に行動する──メールの表示名、SNSのアイコン、LINEの名前は簡単に偽装できる。表示名ではなくメールアドレスや電話番号で確認する
- 子どもが「騙された」と感じた時に、すぐ相談できる関係を作っておく──はてなの事例でも、従業員は送金後に「騙されたかもしれない」と気づいて警察に連絡している。早く気づいて相談できれば、被害を最小限に抑えられる
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中高生のみんなへ
「企業が5,000万円とか11億円とか騙し取られるって、自分には関係なくない?」──そう思うかもしれない。でも、やり方をよく見てみてほしい。
「社長のフリをしてLINEで送金を指示する」。これ、SNSで「公式アカウントのフリをしてDMでパスワードを聞いてくる」のと、やってることは同じだよね。
「信頼できる相手からの指示」が一番危ない
詐欺って、「いかにも怪しいメール」で来るとは限らない。むしろ最近は、知り合いや信頼できる人を装ってくるケースが増えている。
友達のアカウントが乗っ取られて「お金貸して」とDMが来る。推しの”関係者”を名乗るアカウントから「限定情報を教えるからこのリンクを開いて」と誘導される。公式っぽいアカウントから「あなたのアカウントに不正アクセスがありました。今すぐこちらで確認を」とメッセージが届く。
全部、今回のニュースと同じ構造。「信頼」と「焦り」で判断力を奪ってくる。
覚えておいてほしいこと
お金・パスワード・個人情報が絡むメッセージが来たら、「本当にその人が送ったのか」を別の方法で確認してから動こう。
「至急」「秘密にして」と言われたら、それは詐欺の合図かもしれない。急がせて、相談させないのが詐欺の基本テクニックだから。
もし騙されたかも、と思ったら、恥ずかしがらずにすぐ大人に相談しよう。早く動けば被害は小さくできる。
🛑「急がせる」「秘密にさせる」「別の場所へ誘導する」
──この3つが揃ったら、一度止まる。
💬 友達や家族と話してみよう
「もし友達のアカウントから『お金貸して』とDMが来たら、どうやって本人か確認する?」──この話を家族や友達としてみよう。
関連情報・参考リンク
このニュースについて、さらに詳しく知るための情報です。
📰 元記事・関連ニュース
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🔗日本経済新聞
日本和装HD、5000万円不正流出 虚偽の送金指示で(2026年5月8日) -
🔗Impress Watch
はてな、虚偽の送金指示で最大11億円の資金流出(2026年4月25日) -
🔗トレンドマイクロ
社長を騙りLINEに誘導する「CEO詐欺」の手口を解説(2026年2月6日)
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