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犯罪

2017年 座間9人殺害事件

📅 2017年10月30日 発生
✏️ 記事公開: 2026年6月4日
🎯 対象: 高校生
2017年座間9人殺害事件 SNS時代の標的化型犯罪の出現

📌 事件の概要

2017年10月、神奈川県座間市のアパートで、15〜26歳の男女9人の遺体が発見された。犯人の白石隆浩は、Twitter(現X)で「死にたい」と書き込む若者に「一緒に死のう」と返信し、自宅に誘い出して殺害していた。「自殺願望のある人は言いなりになりやすい」――白石の供述は、SNS時代の新しい犯罪構造を浮き彫りにした。事件後、厚労省はSNS相談事業を開始、Twitterは自殺関連語の検索時に相談窓口を表示する仕組みを導入。「死にたい」のサインを、誰が、どう受け止めるべきかを問う事件です。

何が起きたのか

2017年10月30日、神奈川県座間市のアパートの一室で、クーラーボックスなどに入れられた9人分の遺体が発見されました。被害者は東京・神奈川・埼玉・群馬・福島の5都県に住む15歳から26歳の男女9人。約2ヶ月の短期間に連続して殺害されていました。

逮捕されたのは、そのアパートに住む27歳の男・白石隆浩。手口は、当時のTwitter(現X)で「死にたい」「自殺」と書き込む若者を見つけては、「一緒に死のう」「自殺を手伝う」などと返信して接触し、自宅に誘い出すというものでした。

白石は裁判で、被害者の弱った心理状態につけ込んでいたことを示唆しさする供述をしています。「自殺願望を持つ人」というSOSのサインそのものを、犯罪の入り口として利用したのです。

2008年の硫化水素自殺の連鎖が「ネット情報を自分で見つけて模倣する」構造だったのに対し、この座間9人殺害事件(以下、座間事件)は「ネットで自殺願望を持つ人を探し出して標的にする」という、より能動的で悪質な犯罪でした。SNS時代の新しい犯罪の形を、社会に突きつけた事件です。

📖 関連事件: 2008年 硫化水素自殺連鎖事件 ― ネット情報が「模倣の連鎖」を生んだ前史。座間事件はその構造が「能動的な犯罪」へと進化したもの。


経緯・タイムライン

2017年8月〜10月:約2ヶ月間の連続犯行

白石はXで「死にたい」「自殺募集」などのキーワードで検索し、自殺願望を投稿している若者にダイレクトメッセージ(DM)で接触。「おれと一緒に死のう」「死ぬのを手伝う」とさそって自宅アパートに連れ込んでいました。

8月下旬から事件発覚までの約2ヶ月の間に、9人が次々と犠牲になっていきました。

2017年10月30日:行方不明者の捜索から事件発覚

被害者の一人(23歳女性)が行方不明になっていることを、家族と兄が独自に調査。Xで「一緒に死のう」と誘ってきた人物のアカウントを特定し、警視庁が捜索したところ、白石のアパートからクーラーボックスに入った遺体が発見されました。

その後の捜査で、合計9人分の遺体が確認されました。

2017年11月〜12月:政府が再発防止策に動く

事件のあまりの残虐性ざんぎゃくせいと、SNSが舞台になったことの衝撃から、政府は11月10日に「座間市における事件の再発防止に関する関係閣僚会議」を設置。SNS事業者への要請、自殺対策の強化など、複数の省庁が連携して対応を始めました。

2018年3月:厚生労働省がSNS相談事業を開始

座間事件を直接の契機けいきとして、厚生労働省はSNSを使った自殺防止相談事業を平成30年(2018年)3月から開始しました。LINEやチャットで匿名相談できる窓口が、複数のNPOによって運営される体制が整いました。

「電話は敷居しきいが高い」と感じる若者でも相談しやすい仕組みは、座間事件が生んだ最大の社会的応答でした。

2018年〜:X(旧Twitter)など事業者の対応

X(当時のTwitter)は「自殺」「死にたい」などの語句を検索したユーザーに対して、NPO法人の相談窓口を表示する機能を追加。さらに、自殺を扇動せんどう幇助ほうじょする投稿の通報機能を強化し、利用規約も明確化しました。

2020年12月:死刑判決

東京地裁立川支部は、白石に対して死刑判決を言い渡しました。翌2021年1月、判決が確定。

2025年6月27日:死刑執行

2025年6月27日、白石への死刑が執行されました。事件発覚から約7年8ヶ月が経過していました。


なぜSNSに「死にたい」と書くのか

「死にたい」は、本当に死にたいとは限らない

座間事件をめぐる議論で、「SNSに『死にたい』と書く方が悪い」「軽々しく書くからだ」という意見が一部に出ました。しかし、これは事件の構造を見あやまっています。

自殺対策の専門家たちは、「死にたい」と書き込む若者の多くは、次のような心理状態にあると指摘しています。

  • 本当に「今すぐ死ぬ」つもりではないことが多い
  • 誰かに気持ちを聞いてほしい、つながりたい
  • 身近な人(家族・友人)には言えない、または言っても理解されない経験がある
  • 匿名のSNSだから書ける、という安心感がある

つまり「死にたい」は、多くの場合SOSのサインであり、つながりを求める言葉なのです。

SOSの弱みに付け込む犯罪

白石は、このSOSのサインを「したがわせやすい相手を見つける指標」として利用したとみられています。本来であれば誰かに受け止められるべきSOSが、悪意ある人物の標的にされてしまった――これが座間事件の本質です。

だから、解決策は「『死にたい』と書く側を責める」ではありません。「書く側を悪意から守る仕組み」と「サインを適切てきせつに受け止めるルート」を社会が用意することです。


SNSという舞台が変えたこと

2000年代との違い:「探される」時代へ

2008年の硫化水素自殺の連鎖では、被害者は「自分で掲示板を検索して」情報にたどり着いていました。しかし座間事件では、加害者の方が「自殺願望を投稿している人を検索して」被害者を見つけました。

SNSのハッシュタグ機能キーワード検索が、この「探される」構造を可能にしました。「死にたい」「自殺じさつ募集」などの言葉で検索すれば、同じ気持ちを持つ人が一覧で表示される。それは「仲間なかまを見つける」道具にも、「弱みに近づく」道具にもなり得るのです。

匿名性の両刃もろはつるぎ

SNSの匿名性は、本音を打ち明けやすくします。家族や学校の友達には言えないことを、知らない誰かには書ける。

同時に、匿名性は相手の正体を隠すこともします。「同じ気持ちを共有してくれる人」が、実はまったく別の目的を持っていることもある。座間事件はその極端きょくたんな事例でした。


事件が生んだ社会の応答

政府レベルの対応

座間事件は、政府を動かした数少ない事件の一つです。事件発覚からわずか11日後の11月10日には関係閣僚会議が設置され、総務省・経済産業省・厚生労働省・警察庁などが連携して動きました。

具体的には:

  • SNS事業者への「自殺誘引情報の削除徹底」要請
  • 利用規約への自殺誘引禁止の明記
  • 青少年インターネット環境整備法の改正準備
  • 自殺対策・相談そうだん体制の強化

厚労省「SNS相談事業」の誕生

最も実用的に役立っているのは、厚労省のSNS相談事業です。2018年3月に始まり、現在は複数のNPOが連携して、LINEやチャットで24時間体制の相談を提供しています。

電話相談だけだった時代から、「文字で相談できる」時代へ。これは「電話は怖い」「親に聞かれたら困る」と感じる若者にとって、大きな前進でした。

SNS事業者の対応

Xは事件後、「自殺」「死にたい」などのキーワードを検索すると、画面上部にNPO法人の相談窓口を表示する仕組みを導入しました。現在は他のSNS事業者(Instagram、TikTok、LINE等)も同様の対応を進めています。

現在、多くのSNSでは、「死にたい」「自殺」など危機的なキーワードを検索したユーザーに対して、相談窓口の案内を画面上に表示する仕組みが導入されています。これは座間事件をきっかけに整備が進んだ仕組みです。


それでも、事件は止まらない

残念ながら、SNSを使った自殺幇助ほうじょ事件・誘い出し犯罪は、座間事件以降も発生し続けています。

  • 2020年: Xで知り合った女子高生を1ヶ月間監禁した男が逮捕。供述で「座間市の事件に影響された」と語った。
  • 近年も、SNSで「一緒に死のう」とさそって実際に被害につながる事件が継続的に報じられている。

制度や仕組みは進歩しています。それでも、悪意ある人間が「死にたい」のサインを利用しようとする構造そのものは、まだ消えていません。


教訓

1. 「死にたい」のサインを、安易に責めない

SNSに「死にたい」と書く人を「軽率けいそつだ」「かまってちゃんだ」と否定する声がありますが、それは事件の構造を見あやまった反応です。サインを発する側を責めるのではなく、サインを正しいルート(専門の相談窓口)につなぐ社会を作ることが、本当の予防になります。

2. ネットで「同じ気持ちの人」と出会っても、すぐに信用しない

同じ悩み・同じ気持ちを持つ人とネットでつながれることは、SNSの大きな価値です。しかし、相手が本当に「同じ気持ちの人」かは、文字だけではわかりません。「一緒に〜しよう」と現実で会う提案には、特に慎重しんちょうになる必要があります。

3. SNSの匿名性は両刃の剣

匿名だから本音を書ける。同時に、匿名だから相手の正体もわからない。この両側面を、SNSを使うすべての人が理解しておく必要があります。

4. 信頼できる「人」と「窓口」を、事前に知っておく

困ったときに「とりあえずここに連絡する」と決まっている窓口を、つらくない今のうちに知っておくことが、いざという時に効きます。家族・友人・先生・学校カウンセラー・公的相談窓口――複数の選択肢を持つことが、孤立を防ぎます。

5. 周りの「死にたい」に気づいたら、否定せず聞く

友人やフォロワーが「死にたい」と書いていたら、説教したり否定したりせず、まず気持ちを聞くこと。自分だけで抱え込まず、信頼できる大人や専門機関に橋渡はしわたしすることが大切です。

6. 「ネットでつながる」は進化し続けている

2008年は「ネット情報の模倣」、2017年は「SNSでの標的ひょうてき化」、現在は「生成AIとの対話」「TikTokの危険きけんチャレンジ」など、形を変えて新しいリスクが現れています。SNSのアルゴリズムは、一度関連投稿を見ると似た内容ばかり表示する「エコーチェンバー」を生み、孤立した気持ちをさらに増幅ぞうふくすることもあります。構造を理解しておけば、新しい形態にも対応できるはずです。


考えてみよう

  1. もしあなたのフォロワーが「死にたい」とつぶやいていたら、あなたはどう反応しますか? 黙って見守る、DMを送る、相談窓口を案内する――それぞれの選択肢せんたくしのメリットとデメリットを考えてみよう。
  2. SNSの匿名性は、座間事件のような犯罪を生む一因にもなりました。一方で、匿名だからこそ救われる人(家族にも話せない悩みをかかえた人)もいます。匿名性は規制きせいすべきでしょうか、守るべきでしょうか?
  3. 「『死にたい』と書く人が悪い」という意見にあなたはどう答えますか? その意見の問題点を、座間事件の構造をまえて言葉にしてみよう。

私たちができること

自分が「死にたい」気持ちになったとき

  • SNSで気持ちを共有すること自体は悪いことではない。実際にSNSの友人やオンラインのつながりに支えられてり越える人もいる
  • ただし、SNSだけで問題を解決しようとすると、悪意ある相手につながる危険もある。SNSと専門の相談窓口を併用する意識を持つ
  • 知らないアカウントから「一緒に死のう」と誘われても、絶対に現実で会わない
  • 専門の相談窓口(下記)に、文字でいいから連絡してみる

周りの人の「死にたい」に気づいたとき

  • 大袈裟おおげさだよ」「気にしすぎ」と否定しない
  • 「どうしたの? 話聞くよ」と気持ちを受け止める
  • 自分だけでかかえ込まず、信頼できる大人や相談窓口につなぐ
  • もし緊急きんきゅう性が高そうなら、迷わず119(救急)・110(警察)

SNSを使う一人として

  • 多くのSNSでは、危機的なキーワードを検索したユーザーに相談窓口の案内が表示される仕組みが導入されている。座間事件をきっかけに整備が進んだ仕組みであることを知っておこう
  • 自殺を扇動する投稿を見つけたら、SNSの通報機能で報告する

📞 つらいときの相談窓口

あなた自身、または身近な人がつらい状況にあるとき、以下の窓口に相談できます。一人で抱え込まないでください。

⚠️ 今すぐ命の危険があるときは、迷わず 119(救急)・110(警察)に電話してください。

📱 文字で相談できる窓口(座間事件をきっかけに始まった事業)

📞 電話で相談できる窓口

  • よりそいホットライン: 0120-279-338(24時間・無料)
  • いのちの電話: 0570-783-556
  • チャイルドライン: 0120-99-7777(18歳まで・16〜21時)

最後に伝えたいこと

座間事件で命を奪われた9人は、もう戻ってきません。それは取り返しのつかない事実です。

でも、この事件をきっかけに、社会は確実に動きました。SNS相談事業ができ、検索すると窓口が表示されるようになり、SNS事業者の利用規約が変わり、政府の対策会議が動きました。これらは9人の犠牲が遺した制度です。

SNS時代の「ネットでつながる」リスクは、これからも形を変えて現れ続けるでしょう。それでも、「知ること」「相談すること」「孤立させないこと」で、防げる命があります。そして、つらい気持ちを抱えているのは、決してあなた一人ではありません。


対象年齢

この事件は、内容の重さから高校生を対象としています。

被害者は15歳から26歳で、高校生も含まれる年齢層でした。SNSで「死にたい」と書き込むこと、ネットで知らない人と出会うこと――これらは高校生にとって身近みぢかな行動です。だからこそ、リスクと、つながりの両方を、構造として理解しておく必要があります。

「ネットで悩みを共有してはいけない」ではなく、「悩みを共有するなら、どこと、どうつながるか」を選べる力を、高校生のうちに身につけてほしいと考えています。


用語メモ

  • 強盗・強制性交殺人: 強盗および性的暴行を行った上で殺害した罪。刑法上、死刑または無期懲役ちょうえきのみが法定刑となる極めて重い罪。
  • 自殺幇助ほうじょ: 他人の自殺を手助けすること。刑法第202条で処罰される。座間事件では、白石は「自殺を手伝う」といつわって被害者を誘い出したが、実際には殺人を行ったため、より重い罪状でさばかれた。
  • SNS相談: SNSやチャットを使った相談支援事業。電話相談よりも若者が利用しやすいとされ、座間事件をきっかけに2018年3月から厚労省が事業化。
  • 関係閣僚会議: 重要な政策課題に対して、複数の省庁の大臣が集まって対応を協議する会議。座間事件では事件発覚翌月の11月10日に設置された。
  • 青少年インターネット環境整備法: 18歳未満の青少年が安全にインターネットを利用できる環境整備を目的とした法律。座間事件後に改正の検討が進んだ。

📚 参考資料・関連記事

この事件について、以下のサイトでくわしく知ることができます。

📰 ニュース記事・公的資料

📖 公的機関・相談窓口

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