🔍 話題深掘り ● 注意 📅 2026年4月4日

【番外編】「国産EVバス」はなぜ誰にも疑われなかったのか──万博190台トラブルと「ラベル」を信じる構造

大阪・関西万博で使用されたEVモーターズ・ジャパン製EVバス190台が不具合多発で全廃、大阪メトロは67億円の特別損失を計上した。「国産EVバス」を掲げたEVMJの車両は、実際には中国新興メーカー3社に製造委託された「輸出向け仕様」だったと報じられている。国産導入を重視する政治的判断でBYD案が退けられた経緯と、「国産」「日本製」というラベルを検証せずに信じることの危うさを、ネットリテラシーの視点から番外編として解説する

万博EVバス190台全廃──国産ラベルの裏側を解説するニュース記事のアイキャッチ

📌 番外編|ネットの外にも同じ構造がある

「国産EVバスで世界に日本の技術をアピール」──その言葉、あなたは疑っただろうか?

大阪・関西万博で走った190台のEVバスが全廃された。「国産」というラベルの裏に何があったのか。そして、なぜ誰もそのラベルを疑わなかったのか。

🟨 この記事のポイント(1分で理解)

  • 大阪メトロがEVバス190台を全廃、67億円の特別損失を計上した
  • 「国産」と宣伝されたバスの実態は、中国の新興メーカーが製造した「輸出向け仕様」の車両だったと報じられている
  • 国産導入を重視する政治的判断の影響で、世界的実績のあるBYDの案が見直されていた
  • 「国産」「日本製」というラベルを検証なしに信じた構造は、SNSのフェイクニュースと同じ

万博EVバス190台が全廃──何が起きたのか

2025年4月から10月にかけて開催された大阪・関西万博。来場者の輸送を担ったのは、北九州市の新興企業・EVモーターズ・ジャパン(EVMJ)が販売するEVバス190台だった。

ところが会期中からバスの不具合が相次いだ。走行中の突然停止、ハンドルが効かなくなる事象、中央分離帯への乗り上げ事故──。2025年10月には国土交通省が立ち入り検査を実施する事態に発展した。

万博閉幕後、大阪メトロは路線バスへの転用を計画していたが、安全性の確保が困難と判断。2026年3月31日、190台全ての使用断念を正式に表明した。購入費約75億円のうち、67億円が特別損失として計上された。同年4月14日、EVMJは負債総額約57億円を抱えて民事再生法を申請した。

なぜこの問題はネットリテラシーと関係するのか

これは交通行政だけの話ではない。「ラベルを検証せずに信じる」という、ネット上のフェイクニュースとまったく同じ構造がここにある。

SNSでデマが広がるとき、多くの場合「権威ある人が言っているから」「もっともらしい肩書きがあるから」という理由で検証が省略される。万博EVバス問題でも、まさに同じことが起きた。「国産」「日本企業製」というラベルを、政治家も行政も公的機関も、誰も裏を取らなかった。

「国産EVバス」の実態──設立1週間後にできた製造元

EVMJは「国産EVバスメーカー」を最大の武器として宣伝していた。だが実態はこうだった。

EVMJの車両を製造していたのは、中国の3社──福建威馳騰汽車(WISDOM)、南京恒天嶺鋭汽車(YANCHENG)、愛中和汽車(VAMO)である。万博で事故を起こした車両は全てWISDOM製だ。

注目すべきは、WISDOMの設立時期だ。EVMJが設立されたのは2019年4月1日。WISDOMはその1週間後に福建省で設立されている。EVバス輸出のために地元政府の支援を受けて作られたという情報もある。そしてWISDOMの部品については、「中国国内向けとしては登録が難しい仕様だった」「輸出用としての製造に限る条件で認可を受けていた」と報じられている。

しかもEVMJ自身がサイトに「商用EV車の製造は、当社から指定した仕様・部品をもとに、中国にてOEM製造を委託しています」と明記していた。隠していなかったのだ。

BYD案はなぜ見直されたのか──「国産重視」の判断

当初、大阪メトロの傘下にある大阪シティバスは、万博で使用するEVバスとしてBYDを選定していた。BYDは2015年から京都の路線バスをはじめ、10年間で国内約500台を納車した実績があり、世界的にも大型商用EVのトップクラスの販売台数を誇る。ロンドンの2階建てバスもBYD製だ。

ところがこのBYD案は、大阪メトロへの稟議段階で見直された。報道によれば、国産導入を重視する政治的判断の影響があったとされる。当時の西村康稔経済産業大臣が「万博は国産EVバスで揃えるべき」という姿勢を示し、大阪メトロの役員から「EVモーターズ・ジャパンのEVバスも検討してほしい」との指示が出たという。最終的にBYD案は退けられ、EVMJが1社独占で150台を受注する形となった。

西村氏は2025年4月15日、自身のX(旧Twitter)にこう投稿した──「経産大臣当時、大阪のバス会社が中国製EVバスの導入を進めていたことに危機感を持ち、日本企業製のバスの導入を奨励しました」。この投稿は現在もコミュニティノートが付いた状態で残されている。

西村康稔元経済産業大臣が2025年4月15日にXに投稿した内容のスクリーンショット。「日本企業製のバスの導入を奨励しました」「日本企業のEVMJ製造のバス」の箇所に黄色の縦ラインで注目を示している。
▲ 西村康稔元経済産業大臣が2025年4月15日にXに投稿した内容(黄色ラインは編集部による強調)。「日本企業製」「EVMJ製造」と記載されているが、EVMJの車両は実際には中国新興メーカー3社に製造委託されたものだった。この投稿には現在、読者による補足情報(コミュニティノート)が付けられている。
出典: X (@nishy03) 2025/04/15 投稿より引用・加工。プロフィール画像はぼかし処理済み。

誰も「おかしい」と言わなかった構造

この問題で最も考えるべきは、「なぜ誰も途中で止めなかったのか」だ。

EVMJが「国産」を名乗り始めてから民事再生に至るまで、複数の関門があったはずだ。経産省はEVMJの実態を調べることができた。中小企業基盤整備機構は25億円の債務保証を提供する際にデューデリジェンス(適正評価)を行えた。大阪府は補助金を出す前に製造元を確認できた。メディアも「初の国産EVバス」と賞賛記事を出す前に裏取りできた。

しかし、結果として、ラベルを疑う十分な検証は広がらなかった。「国産」「日本企業製」というラベルが、検証プロセスを省略させる方向に働いたといえる。

人は「国産」「専門家」「公式」「有名大学」「認証済み」などのラベルを見ると、中身を詳しく確認しなくなる傾向がある。これを心理学では「権威バイアス」と呼ぶ。SNSでも「有名人が言っていた」「フォロワーが多いから正しい」と思い込む現象は、同じ構造だ。今回の万博EVバス問題は、この権威バイアスが大規模な意思決定の中で働いた事例ともいえる。

さらに皮肉なのは、「中国製を避けたい」という判断の結果、BYDという実績ある中国メーカーが退けられ、代わりに報道によれば中国国内向けとしては登録が難しい仕様だった中国製バスが「国産」の名のもとに大量導入されたことだ。感情的なバイアスが冷静な技術評価を妨げた構造が見てとれる。

家庭・学校で話し合ってみよう

👋
中高生のみんなへ

「国産」「日本製」って書いてあったら、それだけで安心する? 大阪万博で走っていたEVバス、「国産」って宣伝されていたけど、中身は全然違った。

実際にバスを作っていたのは中国の会社で、しかもその会社が作った車両は「輸出向け仕様」──つまり中国国内向けとしては認められにくい品質だったと報じられている。それなのに「国産」というラベルだけで、政治家も行政も「OK」を出してしまった。

SNSでも同じことが起きている

これ、ネットの世界でもよくあるよね。「有名な人がシェアしてるから本当だろう」「フォロワーが多い人が言ってるから正しいだろう」──そうやって情報の中身を確認せずにリポストしてしまうことはないかな?

今回の万博の話は、「ラベル」を鵜呑うのみにするとどうなるかを、ものすごく大きなスケールで見せてくれた事例だ。結果として、数十億円規模の損失につながった。

「おかしいな」を口に出せる人になろう

この問題で一番こわいのは、たくさんの大人が関わっていたのに、誰も「本当に国産なの?」って声を上げなかったこと。空気を読んで黙ることが、結果的にもっと大きな問題を生んだ。

覚えておいてほしいこと
「ラベル」や「肩書き」だけで情報を信じない。中身を自分で確認する。
「おかしいな」と思ったら、それを口に出す勇気を持つ。
感情的に「好き・嫌い」で判断すると、冷静に見れば避けられた失敗をすることがある。

💬 友達や家族と話してみよう
「国産」「日本製」って書いてある商品や情報を、そのまま信じたことある? それって本当に中身まで確認した?──身近な例を出し合ってみると、意外と多いかもしれない。

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