📊 動向解説 ● 注意 公開日 📅 2026年7月17日

「あなたの卒アル写真が狙われる?!」──総務省が新設したディープフェイク特集が示すもの

総務省が2026年4月、「インターネットトラブル事例集」にディープフェイクの特集を新設した。特集名は「あなたの卒アル写真が狙われる?!」。警察庁の集計では、18歳未満の画像を性的に加工した事案は2025年に114件、被害は中学生が最多、作成者の約6割は同じ学校の児童・生徒だった。なぜ「被害防止」だけでなく「加害防止」が掲げられたのか、家庭・学校でできることを整理する。

総務省がインターネットトラブル事例集2026年版で新設したディープフェイク特集を伝えるニュース画像

学校の卒業アルバムの写真。あれは、身内しか見ないもの——本当にそうでしょうか。

国が2026年版の教材で新設した特集のタイトルは、「あなたの卒アル写真が狙われる?!」でした。しかも、加工した側の約6割は同じ学校の子どもです。

🟨 この記事のポイント(1分で理解)

  • 総務省が2026年4月15日、「インターネットトラブル事例集(2026年版)」を公開。ディープフェイクの特集が新設された
  • 特集名は「あなたの卒アル写真が狙われる?!生成AIによる画像被害とは」。被害防止と”加害防止”の両面で注意を呼びかけている
  • 警察庁の集計では、2025年に警察が把握した児童(18歳未満)の性的な画像を生成AI等で作成した事案は114件。被害は中学生が最多(66件)
  • 画像を作成した側の約6割が、被害児童と同じ学校の児童・生徒。「知らない大人が加害者」という構図ではない
  • 事例集にはトラブルに遭った直後の初動対応を解説する特集ページも新たに加わった。教材として無料で使える

総務省「インターネットトラブル事例集(2026年版)」で何が新しくなったのか

総務省は2026年4月15日、青少年向けの啓発教材「インターネットトラブル事例集」を2026年版に更新したと発表しました。2009年から毎年更新されている定番教材ですが、今年の目玉はディープフェイクに関する特集の新設です。

特集のタイトルは「あなたの卒アル写真が狙われる?!生成AIによる画像被害とは」。総務省は新設の理由として、青少年が生成AIによって自身の顔写真を性的な画像に加工される被害が相次ぎ、報道でも大きく取り上げられていることを挙げています。そして、そうした被害に遭わないためだけでなく、「逆に加害者になってしまうことがないよう」注意喚起することを目的だと明記しました。

もう一つの新設が、トラブルに遭ったときの初動対応と相談窓口の使い方を解説する特集ページです。これは、事例集を使ったワークショップに参加した中高生から「実際にトラブルに遭ったときの対処法をもっと詳しく知りたい」という声が上がったことを受けたものです。「予防」だけでなく「起きてしまった後」に踏み込んだ点が、今年の大きな変化です。

なぜ重要なのか

これは「有名人のフェイク動画」の話ではありません。教室のなかで起きています。

ディープフェイクと聞くと、政治家や芸能人の偽動画を思い浮かべる人が多いはずです。しかし、いま子どもの周辺で起きているのは、まったく別の形をしています。

警察庁が2026年2月に公表した集計によると、2025年の1年間で警察が把握した、生成AIなどを悪用して児童(18歳未満)の性的な画像を作成した事案は114件でした(2024年は110件で、微増)。被害児童の内訳は中学生が66件と最も多く、高校生32件、小学生6件。そして最も注目すべきは、画像を作成した側と被害児童との関係です。約6割にあたる65件が、同級生や同じ学校に通う児童・生徒でした。件数自体は前年から大きく増えていませんが、警察が把握していない被害も相当あるとみられています。

つまりこれは、見知らぬ大人から子どもを守るという従来型の構図ではありません。同じ教室にいる子が、同じ教室の子の写真を加工してしまう——そういう問題です。だからこそ総務省も警察庁も、「被害防止」と同時に「加害防止」を掲げています。防犯教育だけでは足りず、”自分は加害する側になりうる”という視点が必要になっているのです。

素材になるのは、特別な写真ではない

特集名が示すとおり、悪用されるのは特別な写真ではありません。卒業アルバムや学校行事の写真、SNSに載せた何気ない一枚——特別に撮影した画像でなくても、顔が分かる写真が加工に使われる可能性があります。実際に警察庁が公表した実例には、男子中学生が女子生徒のSNS投稿画像を加工して他の生徒に販売した事案や、学校のタブレット端末で閲覧できる行事アルバムの画像を使って複数の男子中学生が性的な画像を作りグループ内で共有した事案、高校の実習助手が勤務先の卒業アルバムの画像を第三者に渡し、加工された画像がSNSで拡散された事案が含まれています。

ここで大人が押さえておきたいのは、「顔写真を一切載せなければ解決する」という単純な話にはならない、ということです。卒業アルバムや学校行事の写真は、子どもにとって身近な記録であり、本人が流出させたわけではない画像が使われている点に、この問題の難しさがあります。公開範囲の見直しは有効な自衛策ではありますが、責任があるのは加工して広めた側です。「写真を載せていたほうが悪い」という被害者非難に傾かないよう、大人が先に線を引いておく必要があります。

「見破る力」を教えるだけでは足りない

生成AIの画像は精巧になり、指の本数や影の不自然さといった旧来のチェックだけで、見た目から確実に真偽を判定するのは難しくなっています。子どもに「フェイクを見抜こう」とだけ教えると、かえって「自分は見抜ける」という誤った自信を与えかねません。

より実用的なのは、判断の軸を「本物か偽物か」から「誰かを傷つけていないか」へ移すことです。たとえ偽物であっても、そこに写っているのは実在する同級生であり、被害は現実に発生します。加工画像が回ってきたときに問うべきは真偽ではなく、「自分はこれをどう扱うか」なのです。

家庭・学校でできること

👋
中高生のみんなへ

グループチャットに、見たことのある顔の”へんな画像”が流れてきた。AIで作ったものらしい——そんなとき、多くの人はまず「これ、本物?」と考えます。でも今のAIは精巧せいこうで、見た目だけで確実に見分けるのは大人でも難しい。だから、その問いから始めても答えは出ません。

大切なのは、「本物か」を当てることではなく、「これは誰かを傷つけていないか」と考えることです。たとえAIが作った偽物でも、写っているのは実在するクラスメイトです。

そして知っておいてほしいのが、こうした画像を作った側の約6割は、被害者の同級生や同じ学校の人だったということ。これは、知らない誰かだけが起こす問題ではありません。同じ学校のなかで、身近な人が被害者にも行為者にもなり得る問題です。

覚えておいてほしいこと
① 回ってきても、転送しない・新たに保存しない・笑わない。届いた画面はそのまま大人に見せる。一人ひとりが転送を止めることで、拡散かくさんの連鎖を小さくできます。
② その画像を本人に送って確かめない。良かれと思っても、本人をもっと傷つけてしまう。
③ もし自分が被害に遭ったら——あなたに責任はありません。うまく説明できなければ、届いた画面やこの記事を大人に見せるだけでも大丈夫です。

📚 もっと詳しく
「作る側」「回ってきた側」「被害に遭った側」で、それぞれ何をすべきかは、中学生向けの記事でくわしく解説しています(このページの下にリンクがあります)。

2026年版の改訂が示す、いちばん大きな変化

今回の改訂で重要なのは、新しい危険がひとつ追加されたことだけではありません。従来の「被害に遭わないための予防」に加えて、加害する側にならないこと、そして被害が起きた後にどう動くかまで、教材の範囲が広がったことです。

性的ディープフェイクは、見知らぬ大人と子どもの間だけで起きる問題ではありません。同じ学校の子ども同士のあいだで起きているからこそ、家庭での防犯だけでも、学校での禁止だけでも足りないのです。「見破る」より「傷つけない」、「隠す」より「早く相談する」。それが2026年版の事例集から読み取れる、最も大きな変化です。

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